建設業における人手不足の現状と将来予測から今後の対策を考える

求人・採用

ここ数年、労働者人口の減少により、建設業以外も多くの業界で人手不足が起きています。
その中でもとりわけ、建設業における職人の人手不足は厳しく、コロナ禍にあっても2021年6月のパートを除く「建設の職業」の有効求人倍率は4.52倍、「土木の職業」の有効求人倍率は6.06倍になっています。これは、全職種平均の1.03倍をおおきく上回っています

厚生労働省:令和3年6月分一般職業紹介状況はこちら

なぜ、建設業ではこれほどまでの職人の人手不足がおきているのでしょうか?
職人の人手不足の現状・原因から、将来予測と対策について、行政が公表している最新の数値情報を含めて整理しました。

人手不足の現状を把握し、今後の対策を検討する際の参考にしてください。

建設業における職人の人手不足の現状

本記事では施工管理者は含まず、技術労働者である職人の人手不足に絞ってお伝えします。また、職人でも、型わく工、土工、左官、とび工、鉄筋工、解体工、電工、配管工、グラウト工など職種によって人手不足の度合いは変わるため、可能な限り職種別に特徴的な指標があれば、それをお伝えしていきます。

最初に、有効求人倍率とは別に、職人の人手不足の具体的な数値を確認していきます。

建設業における職人の人手不足の調査結果

2020年3月25日に公表された国土交通省の「建設労働需給調査結果(令和2年2月調査)に次の記載があります。

・8職種全体で0.7%の不足となった。特に左官で2.4%の不足率が大きい。
・鉄筋工(建築)以外の職種で不足となっており、左官の不足率2.4%が最も大きい。

ちなみに8職種というのは、型わく工(土木)、型わく工(建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木)、鉄筋工(建築)、電工、配管工の8つです。

オリンピック関係や東日本大震災の復興関係で多くの職人不足が発生していた時期と比べると、職人不足の状況は改善されてきていることが分かります。

建設業における職人就業者数の推移

2017年10月31日に公表された厚生労働省の労働市場分析レポート第81号「建設業における若年労働者確保の課題について」の「図1 建設業投資額と建設業就業者数の推移」からの引用です。

水色の某グラフ、技能労働就業者数がいわゆる職人の就業者数です。
平成18年からほぼ右肩下がりで職人の数が減っているのが分かります。

とはいえ、そこまで急激に減っているわけではありません。近年では、建設業の職人は若い人に人気がない職種と言われています。そのため、若い職人が増えずもっと就業者数が減っているイメージの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのイメージは間違っていません。実際、若手職人の人手不足は進み、職人の高年齢化が顕著になっています。

建設業界の今後の推移は、別の記事で記載していますのでこちらも読んでみてください。
・建設業界の市場規模と将来予測、そして中小建設業の課題と対策

建設業における若手職人の人手不足と高年齢化

厚生労働省の同じ資料の「図2 就業者に占める若年層・高年齢層の割合の推移」からの引用です。

全産業の29歳以下の割合が平成28年で16.4%に対して、建設業は11.4%しかありません。平成25年の10.2%より少しだけよくなっていますが、若い人から人気がなく、若手職人の人手不足がわかります。

一方、55歳以上の高年齢層は、全産業が29.3%に対して、建設業は33.9%。職人は肉体労働であるにもかかわらず、全産業よりも4%も高いです。

職人の人手不足が原因で、せっかく仕事の引き合いがあっても断らないといけない、という話はよく聞きます。他にも、なんとか人手を確保するために、単価を少し上乗せして協力会社に依頼する。そのため、外注費が高くなって利益が少なくなってしまう、ということも聞きます。

こうした状態が続くと、売上が減り、利益が減るため、最悪、倒産してしまうリスクがあります。実際、そのようなケースはどのくらいあるのでしょうか。

帝国データバンクによると2020年度の人手不足倒産は120件で前年度の194件から38.1%減少しています。

2019年度の人手不足倒産は194件。6年連続で年度最多件数を更新し、右肩上がりの推移が続いたということです。

業種別件数で見ると、2019年度の建設業は48件。調査開始7年間の累計の業種細分類別では、木造建築が2位で43件、建築工事が4位で31件、土木工事が8位で22件となっています。

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建設業における職人の人手不足の将来予測

一般社団法人日本建設業連合会が発表した資料によると、2025年には2014年から128万人が減少する、と推計しています。また、2025年度までの目標として、生産性向上による省人化で35万人分、新規入職者を90万人増やすとしています。新規入職者は、34歳以下の若者を中心に90万人、うち女性を20万人以上としています。

このような推計はありますが、外国人の雇用が進まなければ、他の人手不足の業界と同様、基本的に人手不足の傾向は今後も変わらないでしょう。とはいえ、中小建設会社では外国人を雇用できる体制があるかといえば、厳しいと言わざるを得ないでしょう。

職人の人材確保における課題

新規学卒者の建設業への入職状況

若手職人の人手不足への対策としては、新規学卒者を採用していくことが大切になります。

平成28年2月に国土交通省が公表した「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」の新規学卒者の建設業への入職状況を引用します。

平成21年に底をうって、新規学卒者の入職が増えていることが分かります。

大きな理由は、建設投資の上昇です。公共工事などが増えて建設業界全体の売上規模があがることで、新卒採用への投資を増やすことができたり、給与を改善できたからです。その他、社会保険への加入が進んできたのも一因でしょう。

理由はどうあれ新規学卒者の入職が増えているという事実が重要です。なにをしても若い人たちには建設業の職人は見向きもされない職業ではない、ということです。ですから、工夫を重ねることで新規学卒者の採用を増やすことは可能ということです。

若手職人の人材採用における課題

新規学卒者を採用できる可能性があるのは分かったとして、気がかりなのは「すぐに辞められないか?」ということでしょう。やはり入職する以上、少しでも長く働いてもらいたいはずです。

同じく国土交通省の「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」から、さらに2つ資料を引用します。

1つ目は若手職人が定着しない原因、もう1つは定着させるための取組みです。求人に応募するとき、不安を残したまま採用されると、数カ月とか1、2年で退職してしまう確率がとても高くなります。

これは、応募をあつめる段階でいかに職人の求職者と求人企業側のズレがなくなるように情報発信するか、が大切になります。また、本質的には、早期の離職者を減らすためにどんな取組みを企業側がすべきかを考え、社内制度などを整備することです。

行政による調査結果としては上記のような課題になっています。しかし、これは調査対象の企業規模や総合建設業の会社なのか職種別建設業の会社なのかが分からないため、あくまで参考程度に見るのが良いでしょう。

自社の場合に求職者である若手職人がどのような不安を感じているかは、自社の若手職人にヒアリングして対策を検討するのが一番効果の高い方法になります。

新卒の職人を採用するためにするべき内容を3ステップで説明している記事がありますので、新卒を採用したいけどなかなかうまくいかない場合は参考にしてください。
・建設業が職人を新卒採用するのに必要な求人方法3ステップとは?

若手職人の早期離職に関する課題

そもそも、入社後すぐに離職する職人がどのくらいいるか、自社だけでなく業界全体での数値を知っておくことは大切です。

平成30年7月31日公表の厚生労働省の労働市場分析レポート第90号の資料を引用します。

高卒就職者とありますが、多くの中小建設業で採用する職人の3年以内離職率と考えて問題ないでしょう。全産業の平均と比べて常に高いことが分かります。

もう一つ同じ資料から、規模別ではどうなのかを示す資料を引用します。

業界の多重構造がはっきりと出ている数値です。元請けから2次請けくらいまでの規模の会社はある程度体力のある会社になっている。そのため、建設業界の中では給与や福利厚生、休日といった条件面や環境面がある程度整備されている。

しかし、さらにその先の下請けをしている会社は、マージンがどんどん抜かれて利益が薄くなり、条件面や環境面を整備するだけの企業体力がない。その結果、せっかく入社した高卒の若手職人が3年以内に退職しやすい、そんな状況が想像できます。

女性職人採用における課題

職人でもいかに女性を採用していくかは、職人に限らず、日本社会において大きな課題です。

労働力人口の急激な減少に伴う人手不足を解決するには、国内であれば女性の雇用、国外であれば外国人の雇用、この2つで補っていくほかありません。とはいえ、建設業、しかも職人で考えると、どうしても女性を雇用するのは難しいと考える会社が多いのが現実でしょう。

同じく国土交通省の「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」から2つ資料を引用します。

1つ目は女性活躍を推進する上での問題や課題です。
建設業の職人という性質上、「そうそううちも同じだ」と思う問題や課題が多くならんでいるのではないでしょうか。

一方で、会社がきちんと対応すれば、コストをかけることなく実現できることも含まれているはずです。

続いて、上記の問題や課題を解決するのに効果的だと思う取組みです。

ざっと眺めるだけだと、たしかにやったら効果的かもしれないけど、実際にやれるかというと難しいかな、、、と思う方もいらっしゃるでしょう。そんな場合は、「なぜそう思うのか?」「なぜやれないと思うのか?」をとことん突き詰めて考えてみるとよいです。実際に導入している会社もある訳ですから。

現実的に女性職人の受け入れをするのは、特に中小企業にとっては困難だとは思います。受け入れる側としていろんなことを検討し、体制を作らなければなりませんから。その前提で、でもこの仕事だったら、この仕事のこの部分だったらとか、なにか女性の職人が活躍できる、会社にとっても人手不足を補うことができる部分がないか検討する価値はあると思います。

職人不足を解消するためにやるべき対策

応募にあたっての不安や悩みの解消

若手職人の人材採用の課題と女性職人採用の課題に挙げられているように、採用にあたってさまざまな課題があります。それは、応募する側からみると、本当に応募して大丈夫か?採用されてもちゃんと働いていけるか?といった不安や悩みになります。

不安や悩み、心配があれば応募はしづらくなります。

まずは、あなたの会社の人材募集について、求職者側の立場になって考えてみましょう。どんな不安や悩みを感じるでしょうか?その不安や悩みが、うちの会社なら問題ないよ!と言えるでしょうか?言えるなら、その理由は何でしょうか?

残念ながら、うちの会社だと解消できない不安や心配が多くなってしまうな、、、と思った方もいるでしょう。その場合は、解消するために何ができるか考えましょう。課題にあった「職人の人間関係をよくする」だったら、飲み会やBBQなどのイベントを会社で積極的に開催する。「技能教育の推進、資格取得の支援」だったら、昔ながらの見て覚えろではなくて、社内での研修や現場にいく先輩との組み合わせ方を考慮するとか、資格取得費用の一部を会社が負担するとか、何かできるはずです。

女性の職人であれば、女性が体力面で問題なくできる仕事は何か?体力が必要な仕事は男性職人がやるなら、どのような現場の体制にすれば可能か?時間外労働をさせにくいなら、あらかじめ元請けやお客さんに相談できないか?考えてみてください。特に女性職人の採用は、やったことがないだけに、求人する側も分からないことによる不安を感じているケースがあります。

職人の求人募集で自社の取組みを伝える工夫

職人が応募にあたって抱えている不安や悩みを解消できる仕組みを会社に作っても、それを見てもらえなければ意味がありません。せっかく良い仕組みや制度を作ってもそれを伝えずに、募集要項だけしか見せていない会社も多くあります。これは本当にもったいないです。

募集要項にのっている情報だけだと、給与や福利厚生に目がいってしまって、人材確保につながりません。待遇面を改善する努力も必要かもしれませんが、それ以上に、あなたの会社が職人を大切にする会社、職人が働きやすい環境を作っている会社であることを伝えることが大切です。

今の時代であれば、ホームページ、FacebookなどのSNS、動画(Youtube)などを活用することで簡単に情報を発信できます。採用面接で質問されたら答える、というスタンスは止めましょう。採用面接に来てもらう、求人募集に応募をしてもらうために、求人企業側が積極的に情報を発信していくことが、人材不足解消の第一歩です

職人の仕事を探している人の目に触れるという意味では、情報発信だけでなく広告も同じです。とにかく広告を見てもらって興味をもってもらう。そして応募してもらうのです。応募を獲得するためにできることは何でもやりましょう。

たとえばハローワークから応募はこないと思っているかもしれませんが、少ないですが応募を獲得することはできます。求人票をつかって、誰に何をどう伝えるかを整理して活用しましょう。ハローワークの求人票の書き方の記事を参考にしてください。
・ハローワークで建設業の職人から応募がくる求人票の書き方6つのポイント

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