介護業界の人手不足の現状と課題、将来予測から今後の対策を考える

求人・採用

・問い合わせはあっても訪問介護職員が足りなくて、お断りしなければいけない状況が続いている・・・
・介護のパート職員は求人応募がくるけど、理学療法士や作業療法士など欲しい有資格者はまったく応募がこない・・・
・異業種から大手企業が参入してきて、小さな介護事業所はますます人材の確保が厳しくなっている・・・

このようなお悩みを介護業界の方からよく聞きます。

高齢者の増加にともない、介護事業者・事業所数は増える一方で、介護サービスを担う人材は、その待遇や環境が課題となって確保が難しい状況が続いています。

特に、異業種から資本力のある大手企業が介護業界に参入してきたことで、地域密着型で介護サービスを提供している中小規模の介護事業所は、より一層人手の確保が厳しい状況になっています。

現状把握からはじめ、将来に向けて人手不足をいかに解消していくか、今後の対策についてまとめました。

介護業界における介護職員の人手不足の現状

有効求人倍率から見る介護人材の不足の状況

まず、公的な指標である有効求人倍率で介護スタッフの不足状況を確認してみます。有効求人倍率は毎月厚生労働省が「一般職業紹介状況について」として報道発表しています。

直近に公表された令和3年4月分について、「職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」の「介護サービスの職業」を確認してみます。有効求人201,996に対して、有効求職が61,366で有効求人倍率が3.29倍となっています。1年以上続くコロナ禍にあっても介護サービスの有効求人倍率は高止まりしています。

なお、全職業では有効求人倍率が0.95倍で約3.4倍あるため、いかに人材確保が厳しいか分かります。

※厚生労働省の一般職業紹介状況(令和3年4月分)についての報道発表資料はこちら

今後必要となる介護人材の数からみた人手不足の状況

厚生労働省が2018年5月21日に報道発表した『第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について』からの抜粋となります。この資料では、今後必要となる介護サービスの見込み量から必要となる介護人材の数を算出しています。

※厚生労働省:第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について 別紙1はこちら

上図のとおり、2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人、年間で6万人程度の介護人材の確保が必要となっています。

6万人程度の介護人材の確保が必要といっても、いまいちどのくらい人手不足が深刻なのかピンとこないですよね。同じ報道発表資料の別資料に介護職員数の推移の資料があるため、その資料を参考に読み解いてみます。

介護事業所で働く職員数

『第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について』別紙3「介護職員数の推移」です。

この資料は、要介護(要支援)者数と職員数をグラフ化したものです。

直近の介護職員数の推移をみてみると、平成25年度170.8万人⇒平成26年度176.5万人⇒平成27年度183.1万人⇒平成28年度183.3万人となっています。6万人以上増えている年度もありますが、平成27年度から28年度にかけて2千人しか増えていません。

平成28年度以降の数値をみないと確定的なことは言えませんが、介護人材のなり手が頭打ちになっている可能性があります。少なくとも毎年6万人近く介護職員の数を増やしていくことは簡単なことではなく、現状、人手不足が深刻な状況にあることは分かります。

※厚生労働省発表:第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について 別紙3「介護職員数の推移」

人手不足の現状に対する介護事業所の認識

今度は、2018年4月9日経済産業省公表の『将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書』から抜粋していきます。介護事業は厚生労働省が所管ですが、経済産業省は業界横串でICT活用による人手不足解消の低減のための施策を検討しているため、少し視点の異なる情報を得ることができます。

介護職員の不足を感じているのは約6割の事業所にのぼります。また、介護職員の不足感の経年変化は右肩上がりで推移してます。このまま右肩上がりで不足感が推移していくと大変なことになります。

介護人材が不足することで、必要な介護サービスを受けれなくなる可能性があるのです。要介護者も右肩上がりで増えている中、家族に高齢者がいる方にとっては本当に大きな問題になりえます。

※経済産業省:将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書はこちら

介護業界が人手不足に陥っている原因

介護業界の採用率と離職率

経済産業省の同じ資料に、もう1つ興味深いデータが掲載されています。採用率と離職率です。

採用率は右肩下がりで、離職率は横ばい。

当たり前と言えば当たり前ですが、採用できないから人手不足になります。これ以上詳しいデータはないため、採用率が右肩下がりになっている理由として、そもそも介護職に応募する母数がどのくらい減っているかは分かりません。

資料を付けていませんが、離職率はさらに細かい資料があり、規模が大きい介護事業所は離職率が低く、規模が小さい事業所が離職率が高いという結果になっています。これは介護業界に関わらずどこでも同じでしょう。人数が少なく、人手も足りないことから、厳しい労働環境になっていることが想像されます。

2つの数値をもとに考えると、大手の介護事業所は離職率は低く抑えられているものの、応募者は減っており、介護職員の不足が起きている。一方、小規模の介護事業所は他業界・他業種へ転職したり、介護業界で大手事業所に転職する職員が増えて離職率が高くなっている。さらに離職率が高い原因と想像される厳しい職場環境が影響して、ただでさえ条件面に優れる大手介護事業所に応募が流れてしまい、応募がほとんど来ないことで人手不足が起きている。

このような分析ができます。

介護人材の確保を難しくする原因でもある介護業界のイメージ

他業種との比較で、介護職のイメージをまとめた資料があります。

ポジティブなイメージとしては、
・社会的に意義の大きい仕事
・今後成長していく業界
・資格や専門知識を活かしていける
・人との交流がやりがいにつながる
というのが上位となっています。

一方、ネガティブなイメージは、
・体力的にきつい仕事が多い
・精神的にきつい仕事が多い
・給与水準が低め
・他人の人生に関わるのが大変そう
・離職率が高い
というのが上位になっています。

給与は安くて仕事もきついけど、社会的に意義の大きい仕事でやりがいを感じるから介護職で働いている、という人は話を聞いている限りたくさんいらっしゃいます。どんな業界でも、ポジティブな面とネガティブな面があります。しかし、介護業界特有の、社会的意義や「やりがい>つらさ」、という構図を解消していかないことには、人材確保は難しいのではないでしょうか。

※リクルートキャリア「介護サービス業 職業イメージ調査 2015」はこちら

介護事業所が人材確保にあたって解決すべき課題

経済産業省の報告書では、次のように課題がまとめられています。

・離職率が高い介護事業所では、採用において、経営理念や運営方針、現場の人間関係等に合致する人材の確保ができず、その結果さらなる離職を招くという悪循環に陥っていると思われる。

・また、事業所の内生的問題に加え、外生的問題として、心身の負担や賃金に係るネガティブイメージが採用活動において不利に働いていると考えられる。

・このため、事業者としてこうした悪循環を断ち切る取組=現状からの改革を行うとともに、介護分野全体としてネガティブイメージを変えることが必要ではないか。

弊社も提唱していますが、自社の理念や方針に合った人材を確保し、確保した人材の働く意欲を高める取組みを実施することでES(従業員満足)を高めることが、大切です。ESが高まることで、提供するサービスの品質が向上し、CS(顧客満足)も高まります。

その結果、介護事業者としても売上・利益を伸ばすことができ、それを求人・採用活動や社内制度の充実に投資することができます。こうした好サイクルにもっていくことが最終的に目指すことでしょう。

この給与が低いというネガティブイメージに対して、当該報告書に興味深いデータが載っています。

「介護関連職種の賃金水準は、全産業の平均賃金と比べると低いものの、女性に限定して比較した場合や、地域別・勤続年数別で比較した場合、他の対人サービス業に比べ、必ずしも低くないと言えるのではないか。」

確かに、データを見ると女性は他業界と同程度の給与水準で超過勤務時間が少ない。男性は他業界より給与水準が低いが女性と同様に超過勤務時間は少ない。という結果になっています。

男性の給与水準を産業計に少しでも近づけるよう、国が施策を打たないと人材確保においてネガティブな材料となってしまい、介護事業所の人材不足解消は実現できないでしょう。

介護人材を確保するための対策・取組み

厚生労働省の資料に戻ります。別紙4「総合的な介護人材確保対策(主な取組み)」を見てみます。

大きく5つに分類して対策(取組み)が整理されています。①介護職員の処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④介護職の魅力向上、⑤外国人材の受入れ環境整備、です。

やはりなんと言っても、①の介護職員の処遇改善が大きいと考えます。介護職員の方の仕事内容は、まったく知らない人から想像できないかもしれないほど、大変だからです。老人ホームの入居者から介護職員がセクハラを、日常的に受けているというニュースも後を絶たない、肉体的にも精神的にも厳しい職場なのです。

その割に、給与が労働の対価として見合っているかというと、見合っていないのが現状でしょう。介護報酬は介護保険法で決まっていますが、そもそも介護報酬が低すぎることが原因で、給与を上げたくても上げられない現状があります。

もちろん、介護事業所の経営者さんたちは、給与面だけでなく、働きやすさを追求していると思います。それでも、働くうえで、金銭的な部分がインセンティブにならないということはあり得ません。ここは、国が主導して改善していくことが望ましいです。

他には、介護ロボットやICTの活用推進は、絶対的な労働人口の減少への対策として、欠かすことはできないでしょう。介護事業に関わらず、今の人手不足を補うためには効率化できる作業は効率化することが重要です。そのために、介護分野では特に、国が主導して補助してもらいたいと考えます。

※厚生労働省発表:第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について 別紙4「総合的な介護人材確保対策(主な取組)」

人材不足を補うIT・ロボット等の活用

労働力人口が減少していく中、ITやロボットの活用は避けてとおることはできません。介護事業においても同様です。しかし、多くの課題や問題が存在し、導入は進んでいません。

特に気になるのは、介護ロボットなどの課題や問題のダントツトップが「予算がない」、6位が「投資対効果がない」となっていることです。介護ロボットなどの価格が落ち着いてくることで予算の問題がクリアされ、投資対効果見合ったものになるのか?そもそも、現状、投資に対する効果をどのように評価しているのか?

介護サポーターに関する部分でも報告書に記載がありますが、まず誰がどのような役割分担で業務をするか、業務フローの精査・見直しが必要になるでしょう。業務を改善することなく、今の業務を前提に投資対効果を見積もっても仕方がありません。業務フローを見直す中で、介護サポーターが担えること、IT・ロボットが担えることを明確にする。そのうえで、投資対効果を評価するべきでしょう。

少なくとも、過度にIT・ロボットに対して、知らないことによる不安を感じて否定的に考えるのではなく、「どうしたらIT・ロボットを活用できるか?」を考えていくことが大切です。

大きな目的は介護サービスの質の向上です。人手が不足していることで、十分なサービスを提供できない状況は避けなければなりません。明らかに利用者が増える一方で、介護事業で働く人は減っていきます。逆相関の状況の中で打破していくには、新しい挑戦が不可欠ではないでしょうか。

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